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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

拳とメイドと崔淫茶

※ レズ的な絡みがあります。ご注意を。

   『拳とメイドと崔淫茶』


















 白黒の魔法使いが現れた。いつもいつも、本当に厄介な奴だ。
 妹様を倒したほどの腕前といえど、職務上この魔法使いを何としても止めなければならない。
 そう思って体を張るが、今日も敗れる。魔砲の絶大な威力の前には私の気孔など火花のようなもの。
 屈服させられて、また砂を噛まされた。
 地下からはパチュリーさんが必死に放つ魔法の波動が振動となって伝わってくる。そして静寂。
 箒に跨る人間が横切った。そして遠くへ。
 もう何度門を突破されたか。その度、館の皆に合わせる顔がないというのに。

 夕食の時間。
 妖精メイド達にさえ、笑顔を向けることができない。笑ってみせても、自分でわかるぐらい引きつってしまう。
 お皿が並べられて食事が始まる。食欲は無かった。
 お嬢様や咲夜さんが話を振ってくるが、空元気でしか反応できなかった。次第に皆は気を遣ってか、あまり話しかけてこなくなった。
 食事は程ほどに、自分の部屋へ戻った。
 ベッドに身を投げて、真剣に考え直す。どうすれば白黒魔法使いさえも追い払い、完璧な門番になれるのか。
 お嬢様がお戯れで紅い霧の騒動を起こして以来、私は幾度となく霧雨魔理沙という人間の魔法使いにあっさりとあしらわれた。
 最初は皆の前で「仕方がなかった」「自分の命まで失いたくないので仕事を放り投げた」「咲夜さんに任せることしました」などと冗談を混ぜてあまり気にしていないように言っていた。
 近頃は門を突破されるたび、前ほど冗談を言えなくなってきた。
 私は妖怪だ。人間を捕食する側だ。あんなふざけた人間にこけにされて、黙っていられる身分じゃない。
 自身の気孔を高めて、体を鍛え、修練を積んで立ち向かってきた。それでも、あの馬鹿な火力の前には意味がなかった。
 自分の力ではあの魔法使いは倒せないのではないかと自問し、絶望した。しかし、新しいスペルカードを考案する度それを希望に仕事に励んできた。
 今度こそ駄目かもしれない。そこらの弱い妖怪や、命知らずな人間しか追い払えないようでは、門番なんて名乗れない気がしてきた。
 気がつけば、嗚咽を漏らしていた。悔しい。自分の中に、自分を励ます言葉が出てこないほどに。
「美鈴さま?」
 ドアがノックされた。妖精メイドが私を呼んでいる。少し待ってもらい、落ち着いてからドアを開けた。
「美鈴さま、咲夜さまがお呼びです」
「そう、わかった。ありがとう」
 どうしよう。咲夜さんに呼ばれるなんて思っても見なかった。
 きっとお叱りを受けるに違いない。パチュリーさんも一緒にいて、二人して私を攻めるんだ。役立たずね、なんて言って。
 そんなことを想像すると、胃が痛くなってきた。吐き気がする。気が重い。
 妖精メイドがどこかへ行ったのを確認して、私は咲夜さんの部屋へ目指した。憂鬱だ。

「咲夜さん、美鈴です」
「どうぞ入って」
 ドアを叩いて、中へ入る。
 部屋のテーブルには湯気の立つカップが二つ。咲夜さんは仕事着のままで、くつろいでいた。
「その、何の用でしょう」
「まあまあ、お茶を入れておいたの。飲みながら、ゆっくり話してあげる」
「……いただきます」
 席に着いてまずはお茶を一杯。茶は紅茶で、その中でもクセのない茶葉を使用したものだった。すっきりとしていて、気分が爽やかになれる。
「さて、美鈴。今日も魔理沙を通してしまったのね」
「んんっ!?」
 こんな始まりで話をするのではと想像していたが、いざされると衝撃を感じて胸が圧迫される。思わず、カップを落としそうになった。
「大丈夫、美鈴?」
「え、ええ……」
 本当に落としてしまわないうちに、お皿へ置いた。
「ねえ美鈴。今更聞くけど、あなたはうちの立派な門番よね?」
「も、勿論ですよ」
「じゃあどうしていつも魔理沙を通してしまうのかしら。魔理沙がきたときは仕事をサボタージュしているのかしらね」
「そんな、私は全身全霊をかけて仕事して……!」
「美鈴には何も訊いてない。今はわたしが喋っているのよ、美鈴は少し黙っていなさい」
 咲夜さんが扱うナイフの如く鋭い眼光で睨みつける。息が詰まったような思いがして、言葉を出せなくなった。
「パチュリー様も大層腹を立てておいでよ。今日のところは文句を言うのも面倒だって仰っていた」
 それはつまり、呆れられているということ。随分前からそうなのかもしれないが。
「わたしからも色々と言わせて欲しいのだけれど……それは可愛そうだから一つ、あなたに強要するわ」
 目の前から咲夜さんが消える。かと思うと、自分の首にナイフの刃を当てられていた。咲夜さんが時間を止めて、私の後ろに回りこんだということ。
「わたしのお叱りを受けなさい。美鈴、あなたに拒否権はないわ。だから、嫌とは言わせない」
 後ろを振り向くことなく、頷いた。頷くしかなかった。
「私は、何をすればいいんですか。咲夜さん」
「そうね、まずはベッドで横になってもらう」
 言われるがまま、咲夜さんのベッドに寝転がる。咲夜さんが傍で私を舐め回す様ないやらしい目つきで見つめる。
「美鈴」
 咲夜さんが私の名前を呼ぶ。悪さをした子供を呼ぶような響きで。
 スリットから見えてしまう太腿を撫でられながら。
「今夜、あなたはわたしの奴隷になるの。わたしのいいなり、人間であるわたしのおもちゃ。だから、刃向かうことは許されない。反対することも当然なの」
「ぇ……そ、そんな!」
 顔を横に揺すられた。頬がヒリヒリする。私は、咲夜さんに引っぱたかれたのだろうか。
「聞こえなかったの? ねえ、どうなの?」
 咲夜さんが私の上へ馬乗りに。首をその綺麗な両手で甘く締め付けられた。
「返事ぐらい、しなさいよ。ねえ、美鈴」
「わ、わかりました……咲夜、さま……」
 咲夜さんが笑う。それは人間的な優しいものではなく、見るものに恐怖感を与えるような妖怪的なもの。
「そう、それが賢明だわ」
 咲夜さんの顔が近づく。私は、反射的に目を閉じた。何をされるのか、見たくないから。
 唇に人肌の温もり。もしやと思いながらも、目は閉じたまま。温もりが離れていく。
 目を開けると、そこには瞳を潤ませる咲夜さん。
「美鈴、あなたが好きだったのよ。苛めてやりたいほどに」
「さ、咲夜さん何言って……」
 私の戸惑いなんかに耳を貸そうとしない咲夜さんが、もう一度接吻を迫ってきた。
 ただ、嫌だとは思わなかった。むしろ、それを受け入れた。
 咲夜さんの白い指先が私の耳に触れる。耳たぶをくすぐられて、思わず声を上げる。
「ふふ、可愛く鳴いちゃって。美鈴は妖怪だけれど、性欲も人間離れしたいりするのかしら。耳を触るだけで息を荒げちゃって」
「そ、そんなつもりは……はぁ、はぁ……」
 おかしい。動悸が激しい。お茶一口で喉を潤しただけなのに。あのお茶に何かあったのだろうか。
「おかしいわよね。あなたは、こんなに淫らな妖怪ではないのにね」
「何ですかその言い方。やっぱり、さっきのお茶に何か……」
「あら、まだ気付いてなかったの? あまり使いたくなかったんだけどね、今のあなたは相当落ち込んでいるみたいだから使わせてもらったの。崔淫の薬」
 それはつまり、性的刺激に対して過剰反応するようにされる薬。
「……ごめんなさいね、美鈴」
「え? 何がですか、咲夜さん」
「あなたが門番の仕事で悩んでいるのはわかっているの。あなたが気にしていないような素振りをしてるのも知っていた。でも、今までパチュリー様の機嫌を取るのに忙しかったの」
「咲夜、さん?」
「聞いて、美鈴。あなたは門番であるけれど、無理しなくてもいいの。極端な話だけど、お嬢様が美鈴と誰かが争ったりするとこを見たがっていらっしゃるだけだから。
 だから門番ではあれど、死守する必要はないの。危なくなったらいつでも逃げていいのよ。本当に危険な奴が来たりすれば、館の皆で戦ってあげるんだから」
「咲夜さん……」
「あなたはそこまで仕事に励む必要ないの。もっと気楽でいいのよ。だから、魔理沙に負けても気にしないで欲しいの」
「……でも、私のプライドがそれを許しません」
「なら、それを目標にすればいいじゃない。ねえ、美鈴」
 上から私を抱きしめる。私も、それに応じる。
「だから、ここを出て行こうなんて絶対に思わないで。寂しくなっちゃうわ」
「咲夜さん、どうしてそれを……」
「あなたの考えることなんて、全部顔に書いてあるわよ」
「……」
「だからお願い。何があってもここにいて」
「……負けましたよ」
 どちからが合図したわけでもなく、もう一度顔を近づけて口付けを。今度は舌を伸ばして、お互いの唾液を交換。
 咲夜さんが、私の髪に触れた。
「美鈴の髪の毛、すごく綺麗。お嬢様といい勝負してるわ、きっと」
「そんなお世辞言って……」
 対抗心を燃やして、私も触らせてもらう。
「あ、美鈴はわたしの言うこと聞かないと駄目でしょう。勝手なことしちゃ嫌よ」
「そんなこと言って。本当は私に色んなところ、触って欲しいんでしょう?」
「……」
 火のついた私の淫らな気持ちで体が火照る。私からキスを迫り、咲夜さんの手を取った。
「め、美鈴!?」
「咲夜さん、私もあなたのことが好きになっちゃいました。咲夜さん、私の色んなところ、いじってください」
 咲夜さんが磨く爪先を撫でて、手、二の腕、肩まで登らせていき、うなじに触れる。
「あ、くすぐった……や、やめなさい美鈴」
「咲夜さん、素敵」
 抱き寄せて、髪の生え際に舌を這わせる。咲夜さんが悶えた。
 次に耳たぶへ口付け。咲夜さんが声を出そうとしているのを堪えているのか、口を押さえている。
「ねえ、咲夜さんも私に何かしてくださいよ。私は咲夜さんの遊び道具なんでしょう?」
「わ、わたしが悪かったから、やめて……。力、入らないの……」
 舌で耳たぶを転がしてみたり、甘噛みしてみたり。その度、体を震わせて呼吸を乱す咲夜さん。
「そ、そこは嫌なの。こ、声が出ちゃう……」
「もう、これじゃあ咲夜さんが私のおもちゃみたいじゃないですか。私を慰めてあげようと呼んだんでしょう?」
「え、ええ……」
「これじゃあ咲夜さんが苛めて欲しいから私を少し弄んでみました、みたいじゃないですか」
「そう言われても、美鈴に色んなところを触られたら……何も考えられなくなっちゃうんだから仕方ないじゃない」
 首筋を撫でるように舌で舐めると、また甘い声を上げる。
「咲夜さん、いやらしいですよ。言い訳なんてせずに、素直にこうして遊んで欲しかったと言えばどうです?」
「め、美鈴、わたしはそんなつもりじゃ……」
 再度唇を奪う。離すと、頬を紅く染めて受身な状態の咲夜さんがいた。
 私は咲夜さんを横にした。お互い、寝転がって見詰め合う。
「咲夜さん。私、これからも門番続けます。がんばりますから」
「ええ、これからもお願いね。美鈴」
 足を絡ませて、再三のキス。舌を入れたりはせず、だらだらと唇をくっつけるだけのキス。
「美鈴。今夜はこのまま、一緒に寝て欲しい」
「いいですよ。咲夜さんがそう言うなら……」
 二人、手を繋いで恋人のように寝入る。
 私は門番として、十分な働きはできていると再認識させられた。
 咲夜さんがこんなに気をかけてくれているんだ。門番を続けよう。
 あの魔法使いを倒すためにこれからも修行を続けていこう。今まで、倒せるところまで追い詰めたことだってあるのだから。
「ねえ……美鈴」
 眠たそうな声で、咲夜さんが質問を投げかけてくる。
「あなたはどうして、魔理沙のマスタースパークを避けずに防ごうとするの?」
「それは……紅魔館が壊れたりしたら困るじゃないですか。だから……」
「美鈴は、優しいのね。でも大丈夫、パチュリー様がマスタースパークじゃ壊れないよう結界を張っているから。今度からは受け止めなくていいのよ」
「そうだったんですか。それなら、もう吹っ飛ばされたりなんてしません」
「がんばってね、美鈴」
「ええ」



 翌日。
 私は咲夜さんにおはようの挨拶を言って、妖精メイド達に見られないよう自分の部屋へ戻った。
 スペルカードを懐にしまって、気を引き締める。もし今日白黒が現れるものなら、追い払って見せるぞと。
 お昼が過ぎた。道に迷った人間の男性に道を教えてあげてから小一時間。
 遠くから光線が迫ってきた。受け止めることなく、それを回避。紅魔館に直撃するが、びくともしなかった。
「なんだ、今日は当たってくれないんだな」
 やはり現れた。白黒の魔法使い。私は構えた。
 何としてでも、魔法使いの懐に潜りこむんだ。流れ弾なんて気にする必要はない。
「よう、門番。今日は気合入ってるじゃないか。いつもならそろそろ吹っ飛んでくれるのにな」
 何か言ってくるが、気にする暇はない。飛び交う光線を掻い潜って、魔理沙の姿が大きくなっていく。近づいている証拠。
 飛び交う星の弾に服が破れ、光線の熱に髪が少し縮れる。魔理沙まであと三歩の距離。
 箒で逃げようと焦ったところへ気を集めた発勁を横腹にお見舞いしてやった。
 吹っ飛び、しりもちをつく魔理沙。
「ま、参った!」
 ようやく聞くことができたその言葉。
「今日のところは勘弁してやる。すたこらさっさと逃げるぜ」
 お腹を抱えて、飛んでいく魔法使い。思わず、両手を握り締めた。
 後ろから誰かが走ってくる。振り向くと、メイド長の咲夜さん。
「やったじゃない、美鈴!」
 飛びつかれて、咲夜さんの体を受け止める。
「お嬢様が、お腹を抱えて笑っていたわ」
 嬉しくなって、私からも抱きしめる。
「今夜はお祝いでもしようかしらね」
「そんな、大げさですよ」
 あんまり嬉しいので、何もしなくても顔がニヤけていしまう。
「どんな料理を作ってあげようかしらね。それとも、夜のお遊びのほうが美鈴はお好み?」
 女同士、妖怪と人間が抱き合うなんて変な構図だなんて思った。
 でも私は全然問題ない。むしろ大歓迎。咲夜さんが、それを望んでいるから。
 思わず、キスを迫ろうとすると咲夜さんに断られた。それは夜のベッドの上だけだと。
 夜が、待ち遠しい。

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